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イワツバメ
ー ヒトズキイワツバメ ー

イワツバメとヒトズキイワツバメ

冬に寒さを感じる場所

冬の寒さに耐える12月下旬

ワンルームマンションに住んでいたとして、最も寒さを感じる場所はどこでしょう?

入浴する前のお風呂、朝に顔を洗う時の洗面所、換気扇を回している台所など、たしかにどの場所も寒さを想像することができます。

私があげるなら、外の冷気が伝わるベランダの窓際です。薄いガラス一枚を隔てた向こう側は冬。刺すように鋭い風がガタガタと窓ガラスを叩いていて、時折、風はガラスを突き抜けて部屋の中まで刺してくる。

「こんな日は外を見るのも嫌だし、ベランダに出るなんてもってのほか。暖かいこたつに入って、みかんでも食べるのが日本の冬。これぞ風情だよね。」そんな気持ちにさせられます。

ベランダの向こうの影

こたつで温めた手を外に出し、机の上に置かれたみかんに手を伸ばします。一枚一枚丁寧に皮をむいて半分に割り、その一粒を口に含み感じる風情。甘さを目一杯感じるために目を閉じて五感を集中させ、冬の恵みと真剣に向き合います。暗闇からぼんやりとした雪あかりを感じ、口に広がるまろやかな甘み。

生きてることに感謝しつつ、ゆっくりと目を開けたとき、無意識にベランダの方を見ます。モザイク模様の擦りガラスの向こうに、なにやらいつもとは違う黒い影。枯れ葉でも舞い込んできたのかな?軽い気持ちで受け流します。

意志を持つ影との葛藤

みかんをもうひとくち運び、その甘酸っぱさにさらなる至福を感じたとき、またもや視界に入り込む黒い影。先ほどとは違う場所に移っています。枯れ葉であれば、不規則に素早く転がるはずですが、その影は自分の意志でも持っているかのようにゆっくりと動きます。

気になって目で追いかけます。ベランダの左端まで動いたかと思うと、反転して右側へ動き出しました。強い風が吹き付けたとき、その影は中へと舞い一瞬大きな影となりました。そしてまた元の場所へ戻ります。

なにかおかしいです。気になります。とても気になります。でもこたつからは出たくありません。寒い窓際になって近づきたくありません。しばらく自分自身と葛藤します。

やっぱりこたつが勝ちます。「冬はこたつしか勝たん。どうせたいしたことないよ。忘れよう」今はこたつとみかんによる、至福の時間を過ごすことに勝るものはありません。

困った影の渾身のひと鳴き

こうなると困るのが影の方です。こんなにも分かりやすく、必死にアピールしているのに出て来てくれません。冬のこたつとは、これほどまでに強い中毒性のあるものだとは思いませんでした。

こうなれば最後の手段です。影は全力で鳴き声を発しました。「チリリッ!チリリッ!」 

大慌てのこたつ人間とイワツバメ

大慌てなのが「こたつ人間」枯れ葉が大きな声で鳴いたので、心臓が飛び出すほど高鳴りました。急いでベランダの方に駆け寄り、窓を開けてみました。すると、そこにあったのは枯れ葉ではありませんでした。

そこにあった、いや、そこにいたのはツバメ。一般的には「イワツバメ」と呼ばれる種類のツバメでした。頭から背中、尻尾にかけては黒く、喉から胸、お腹はくすんだ白い色。特徴的なのが脚から指で、細く白い羽毛に覆われています。その色合いと、ずんぐりとした体系から「空飛ぶペンギン」とも呼ばれます。

本来なら夏鳥として春から夏にかけて日本に渡ってきて繁殖し、秋になると越冬地である南方へと飛び立ちます。しかし、近年では温暖化の影響により日本で越冬する個体も増えてきました。

こたつ人間とヒトズキイワツバメ

今回やってきたイワツバメも、日本で越冬する個体だったのでしょう。ただ、想像以上の寒さに襲われ、暖を求めてベランダまでやってきました。しかし、全力で鳴いたために息を切らせてしまい、しばらく動けなってしまったようです。

そんな様子を見て「こたつ人間」はそっと手を差し出し、ゆっくりとこたつで温められた両手でツバメを包みました。

「この子はきっと、他のイワツバメとは違う。だって人がいるところまでわざわざやってきたんだから、勇敢な子だね」

人間の言うように、このイワツバメは普通のイワツバメではありませんでした。
この子は「ヒトズキイワツバメ」という特別な子。
日本が大好きで、人間が大好きで、人間と共生しようとする特別なイワツバメでした。

寒い冬、ベランダに目を向けてみてください。そこには特別な「ヒトズキイワツバメ」があなたを待っているかもしれません。

※このSTORYはフィクションです

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